障害科学の歩み~世界と日本の障害科学~

世界の障害科学の出発

障害や障害のある人々が近代科学の対象となったのは、19世紀末、心理学や精神医学、社会事業においてでした。これらの科学では、障害は、正常を基準として生理的・心理的な異常や逸脱あるいは個体差として研究され、障害がもたらす影響を教育による軽減や、社会問題との関連が追究されたのです。第一次世界大戦のころになると、戦傷軍人や労災被害者対策としてリハビリテーションが成立しました。このように、第二次世界大戦前には、障害に関する科学は心理学や医学等の一分野として成立しましたが、その拡大は緩慢でした。

日本の障害科学の出発と発展

日本における障害に対する科学的関心の本格的な成立は、第二次世界大戦後になってからで、学校教育の分野から出発しました。その大きな画期は、1951年、わが国最初の障害児関係の専門学科、東京教育大学教育学部特殊教育学科の設置(障害科学類の源)でした。これ以降、日本の障害児教育の教育と研究の中心として、心理学的・教育学的な研究を行ってきたのです。「特殊教育学」は1973年の筑波大学への移転を機に、「心身障害学」へと転換しました。そして心身障害学は、それまでの学齢期中心の障害児教育から、乳幼児から高齢者までの教育・福祉・リハビリテーション等といった生涯にわたる総合的支援へと、その研究基盤を拡大していったのです。これが日本の障害科学の第二の画期となりました。

そして今日、筑波大学の「障害科学」は、すべての障害を対象とし、心理学、教育学、医学、生理学、社会福祉学、最近では社会学等も含めた総合的な科学分野を基盤として成立しています。これは、他の先進国でも見られない日本独自の科学となっています。こうして日本における障害科学は、独自の科学方法論を確立し、発展することで、より多くの障害のある人々や社会へ貢献をすることが、今後ますます期待されています。